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アニメや映画などを観て感じたこと、想ったこと。ネタバレする場合有。

静かに未来に願う(『リズと青い鳥』感想)

※2018年5月12日時点。まだまだ汲み取りたい所はありますが、現時点での記録として。

 

 

 

 

 

【 】

「良い予感しかしない…。」

公開前、映画館やCMで目に入ってくる『リズと青い鳥』の情報に私は漠然とそんな思いを抱いていた。

その根拠の大半はおそらく、『たまこラブストーリー』や『聲の形』を作り出してきた山田尚子さんが監督だという期待だったと思う。さらに脚本が吉田玲子さんとくれば、私に「期待するな」という方が無理な話。観賞当日も早起きしてアサイチの回に行くのではなく、睡眠をしっかり摂った上で臨んだ。

そしてこの作品はそんな外側の盛り上がりに脇目も振らず、静謐に、恭しく、真摯に、只管に、されど確かな温もりを孕みながら始まり、そして終わっていった。

 

【 】

初見時終盤、劇場内ですすり泣きが少なくとも複数聞こえてきた時は「無理もない」と思った。私はというと泣きはしなかったのだが、序盤、おそらくアバンが終わりタイトルが出る前後あたり、に泣きそうになった。

私はアニメや映画を観ていてもあまり泣かないし、泣くとしても物語の積み重ねありきの終盤で、こんな序盤に泣きそうになるのは初めての経験で動揺した。おそらくは画面から伝わってくる何かが凄すぎて感動したんだろう。

それだけ1カット毎の丁寧さが尋常じゃなく伝わってくるし、キャラクター1人1人の一挙手一投足から目が離せない。しかし1度では追いきれないというある意味ですごく挑戦的な作品だと思う。

2度目は序盤から目を動かし続けて出来る限りの情報を拾っていこうとして終盤に疲れてしまったんだが、不思議な事に疲れても集中力が途切れる訳ではなく気付いたら作品に呑まれて無心で観賞していた。

呑まれると言ってもこの作品においては引き込まれる引力というよりも、水に落とした絵の具の様な気付くと周りが染まっているといったイメージを私は持っている。

 

【 】

言うまでもないと思うが、この作品の焦点は鎧塚みぞれと傘木希美であり、2人の関係性だろう。この2人以外で、既にTVアニメにおいて登場済みのカップリング(関係性)はブレがなく、今回の作品においては目立った揺れは受け取れなかった。むしろ、久美子と麗奈…、特に麗奈がみぞれに意見した時は頼もしさすら感じた程だ。周りがブレないからこそ揺れている、変化していくみぞれと希美の為の作品であると一層強く感じた。

 

そして、結論から言うとこの作品は殻を破る話、閉じた世界から飛び立つ話だと思う。

では、殻を破り飛び立ったのは誰か。

私は鎧塚みぞれと傘木希美の2人ともだと思っている。もう少し言えば、劇中に出てくる絵本の登場人物の置き換えると2人ともリズであり、2人とも少女だということ。

梨々花から希美に渡されたゆで卵、

絵本のリズと少女は声優が一人二役

登下校を最初と最後でしか描かずに下校時は2人いっしょ(登校の順番は殻が出来てしまった順番?)、

暗喩とも取れる表現が様々あるが個人的に決め手になったのは、

終盤、みぞれ→希美と別々に映るカットが切り替わる所、みぞれ後方の窓の外に青い鳥が飛んでいく。みぞれが飛び立てた演出かと思って観ていたら、直後の希美の後方でも同様に飛んでいった。

という部分だった。

もう少し言うと。disjointからjointへの変化。みぞれと希美の関係性にそのまま当て嵌めるという解釈も出来る。そしてまた、それぞれが外の世界へと繋がる(joint)という解釈も出来るのではと私は考えている。

 

 

先で、結論と言ったが、この作品において「結末≠人物の最後や全て」という事も頭に留めておきたい。いや本来どの物語にもこういう性質は有ると思うのだが。

 

劇中において希美が印象的に口にする「物語はハッピーエンドがいいよ。」、これは結末ではなく、願望なのだろう。彼女たちには過去があって未来があり、この作品はその中での今を切り取っているに過ぎない。そしてみぞれの「ハッピーアイスクリーム」によって少し先の未来を決める。

2人の世界が広がる時期を描き、「ハッピー」の言葉によって少しの希望を未来に添える。そしてまた2人は歩いて行く。この作品が終わっても、彼女たちは生きていくのだから。